コピーライティングのテクニックの1つに
「対比」というものがあります。
もともと、対比というのは論理の一種です。
広告では、この対比を使うことで
メリハリが生まれ、説得力が出てきます。
たとえば、ライバルの製品と比較したり、
悩んでいる状態とベネフィットを比較したり
するわけですね。
この「対比」── じつはマーケティング、
つまり参入するかどうかの判断にも使えるんです。
その商品は売れるか、売れないかの判断
ある商品があるとします。
その商品を販売した場合、果たして売れるのか。
それとも売れないのか。
それは「対比」を意識することで
公開前に判断することができます。
では何と対比するのか?
それは世の中の「悩み」です。
世の中に悩みが存在していれば、
それと「対比」をなす商品は売れていくはずです。
ところが悩みという対比するものがない場合は、
その商品は売れないわけです。
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私は毎日のように、
新聞広告に目をとおしています。
今では数千の広告におよんでいます。
そのなかで、
おそらく売れないだろうという例を3つご紹介します。
事例①(エアコン)
「これからのエアコンは機能ではなく、デザインの時代」
このように謳っているエアコンがあります。
その広告では、外観を美しくしたエアコンが紹介されています。
見る角度によって、エアコンの色が変わるというのです。
では、このエアコンは売れるのでしょうか?
おそらく売れないでしょう。
なぜなら、世の中に
「エアコンのデザインを楽しみたい」という人(対比する願望)
が存在しないからです。
エアコンというのは、快適な生活を送るために、
空気を調整するための装置です。
しかも、エアコンというのは
上のほうに配置されており、
壁の色(白など)にとけこんで目立ちません。
多くの人は、あまり意識して見ないことでしょう。
つまり、先の商品は、
「対比構造」がないにもかかわらず売ろうとしているのです。
世の中が求めていない以上、売れないのは必至です。
事例②(火災報知器)
ある火災報知器は、「薄さ」「小ささ」を謳っています。
しかし、火災報知器というのは
天井に取り付けるものです。
どれだけの人が、
天井を意識するのでしょうか。
「薄い」とか「小さい」ということよりも、
「いざという時、きちんと作動するかどうか」
のほうが重要です。
薄かったり、小さかったりするために、
機能が犠牲になっていたとしたら、
それは本末転倒といえるのではないでしょうか。
先のエアコンの事例と同様、
ふだん、こういった製品を意識する人はあまりいません。
つまり「対比するもの」が世の中に存在しないのです。
ですので、この「薄さ」と「小ささ」を謳っている
火災報知器も、おそらく売れないに違いありません。
事例③(万年筆)
ノック式万年筆というものがあります。
ボールペンのようにノックするだけで、
手軽に書けると謳っている商品です。
しかし、万年筆というものは、
キャップを外したり、かぶせたりする行為に
「高揚感」をおぼえるものではないでしょうか。
万年筆を使っている人にしてみれば、
そのような「手間」は、むしろメリットなわけですね。
「今、自分は、高級な筆記用具を使っている」と。
それなのに、ノック式万年筆にしてしまうと、
チープな印象になってしまいます。
せっかくのメリットを奪ってしまっているわけですね。
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そのほか、そのノック式万年筆の広告では、
「瞬間筆記でアイデアをのがさない」
と謳っています。
これも対比構造を意識できていないと思います。
何かアイデアが浮かんだとき、
忘れないうちに万年筆で書き留めたい。
このように考えている人が、
世の中にどれだけいるのでしょうか。
私は、ほとんどいないと思います。
シャーペンでもボールペンでも
できることだからです。
ですので、対比構造(悩みや願望)がないのに、
商品を作り、売りだしてしまっているのです。
「世の中にないから」という理由はダメ
これらの事例に共通しているのは、
世の中にない商品だからという理由で
ポジショニングしてしまっている点です。
だれもまだ作っていない商品だから、
それを作ろう、という発想ですね。
しかし、そこに「対比構造がない」から、
誰も作っていないのです。
結局、売れるか売れないかというのは、
「世の中に商品がないから」という理由はNGです。
そうではなく、
「世の中に対比するような悩みや願望があるから」
という理由で決めなければならない、ということですね。
以上のように、コピーライティングの「対比」という概念は、
マーケティングの分野にも応用がきくわけです。