いつものように私は、
新聞広告をチェックしていました。
すると11面にでしょうか、
こんな「国連の広告」が掲載されていました。
ここで「添削」することは、倫理的に許されると私は考えます。
ターゲットを熟知する
この広告のヘッドライン(キャッチコピー)を見た時、
私はコピーライターが陥りがちな落とし穴に
見事に、はまっているな…と感じました。
「あなた」という言葉を使い、
「質問形」にすれば、それだけで訴求性が出ると勘違いしているな、と。
「もしある日突然、身一つで避難を強いられたら── 。あなたはどうしますか?」
結論からいうと、「訴求点」がずれてしまっています。
つまり、これをみた日本人には、
まったく響かないヘッドラインになってしまっているのです。
なぜか?
平和に慣れきってしまっている日本人に
「武力紛争があって非難を強いられたらどうしますか?」
と質問しても、ほとんどの人はピンとこないからです。
まったくイメージができないと思います。
仮に百歩譲って、「震災によって避難を強いられたら」と
解釈してみるとします。
それでも、いまの日本で
まったく物資が届かず、お茶で空腹をしのぐという状況は
想像しづらいのではないでしょうか?
ですから広告というのは、
ターゲットとなる読み手のことを
まずは十分に理解することが大前提になるのです。
そうしないと、どんなに上手なコピーを書き綴っても、
全く相手に響かないからです。つまり、何の訴求性も出てこないのです。
主語は誰?
なお、
「お茶を飲んで、空腹をしのいでいます」
いきなり、この言葉でボディーコピーを始めても
読み手は、「誰がしゃべっているのか」がわかりません。
このように「書き手だけがわかる状況」というのは、
コピーでよくある間違いなのです。
これこそが「わかりづらさ」です。
・・・
私であれば、こんなヘッドラインにしますね。
長いと思うかもしれませんが、広告に掲載されているヘッドラインよりは、
断然こちらのほうがわかりやすいですし、訴求性があると思います。
ポイントは以下の6点です。
- 仮に、目の前に寄付してほしい人がいた場合のポイントをきちんと押さえている。
まずは「相手の知らない現状」を具体的に伝え、そのあと平身低頭、お願いしている。 - 「子供」に焦点を絞り、「かわいい子供たちを何とか守りたい」という欲求を喚起している。
- ストーリー調にして好奇心を誘発し、ボディーコピーに一気に引き込んでいる。
- 「お茶を飲んで空腹をしのいでいる」という衝撃の事実を、まっ先に伝えている。これも好奇心を誘発する。
- 「5,000万人以上」という具体的な数値を入れて、現実感をもたせている。
- 最後に相手にお願いすることで、「あなたには彼らを救う力がある」と暗に伝えている。
すると、相手は「自分は認められている」と感じる。言われた人は、嫌な感じはしない。
(上記にある「5,000万人以上」というのは、
私が思いつきで入れたものですので、ご了承ください)
対比構造でメリハリをつける
では、ボディーコピーはどのように展開すればよいのか?
簡単です。上記のヘッドラインを「より具体的に」伝えていけばいいのです。
私ならストーリー調にして、対比構造を作りますね。
(「対比」も論理の一種です)
こんな具合に…
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ハワさん一家は、これまでスーダンで平和に暮らしてきました。
母親のハワさんと父親の〇〇さん、そして6歳になるアコイちゃん、
そのほかにも9人もの子供がいます。
アコイちゃんは、勉強がとっても好きな女の子。
毎日、学校に通って勉強し、友達と遊ぶことが何よりの楽しみです。
「行ってきま~す」
今日もアコイちゃんは、元気に学校に出かけました。
ところがその日の午後、突然、〇〇と〇〇とのあいだに武力紛争が起こり、
ハワさん一家は〇〇km離れたエチオピアに避難することを余儀なくされたのです。
(後略)
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長くなるので、ここまでにしますね。
この内容は、広告のスペースによって変化します。
WEBであれば、もっとディテールを描きます。
いずれにしても、
まずは「彼らがそれまで平和に暮らしていた状況」を描き、
そのあとに「武力紛争や避難の話」をもってくるわけです。
このような「対比構造」を作ることで、
読み手は「避難の悲惨さ」を明瞭にイメージできるようになります。
それによって読み手は、
避難を強いられた彼らの気持ちに
初めて寄り添えるのです。
しかし、この新聞広告は、
いきなり「辛い状況」から書き始めてしまっています。
もちろんスペースの問題もありますが、
半面広告にすれば書けるかと思います。
そのほか気づいた点を挙げると…
そのほかにも、気づいた点がありました。
それは、以下の点です。
・貧困、性的搾取、児童労働という抽象的な単語だけが記載されており、
読み手はまったくイメージできない。
よって、こういったことは思い切って削除してもよい。
・1億4000万人…こういったことはボディーコピーの後半で伝えてもよいが、
「大人を助けたい」という人は、グッと減る。
あくまでも子供に焦点を当て、「助けてあげたい」という欲求(感情)に訴求することがポイント。
「子どもや女性、高齢者など弱い立場にある人を保護」
「保護」だけでは抽象的ですので、
読み手は「どのように保護するの?」という疑問をいだきます。
これも「わかりづらさ」の腫瘍といえます。
こういった「抽象的な表現」を、もっと「具体化」してあげると、
読み手はもっとイメージできるようになるかと思います。
・・・
私が目にした国連の広告。
一人でも多くの人に見てもらえたらという思いで、
あえて「添削」という形で追加させていただきました。